5-2.「ISO 3691-4」 適合および安全対策
AGV/AMRの導入時における安全装置の性能要件、ISO 3691-4適合確認のチェックポイント、およびベンダー提示用RFP(発注仕様書)の記述例・チェックリスト関する説明。
1. AGV/AMR 安全装置の性能要件と ISO 3691-4 基準
AGV(無人搬送車)やAMR(自律走行搬送ロボット)の安全設計における世界的デファクトスタンダードがISO 3691-4:2020(無人搬送車およびそのシステムの安全要件)です。従来のガイドラインと異なり、センサー単体の性能だけでなく「システム全体として安全機能をどう担保するか(機能安全)」を厳格に規定しています。
1.1 ISO 3691-4における機能安全要件(PL / SIL)
ISO 3691-4では、搬送ロボットの「安全関連制御システム(SCS)」に対し、ISO 13849-1に基づくパフォーマンスレベル(PL)の確保を求めています。
- 速度・操舵制御および安全停止機能: 原則PL d以上(Category 3以上)の信頼性が必須。
- 二重化(冗長化)の義務: 安全センサー(LiDAR等)が人を検知した際、信号伝送やブレーキ制御に至る回路が二重化されており、単一の故障で安全機能が喪失しない構造であることが求められます。
1.2 主要な安全装置と性能要件
ロボットの速度・慣性重量・走行エリアに応じて、以下の安全装置を組み合わせた多層的な保護システムを構築します。
| 安全装置 |
主な役割と設置基準 |
ISO 3691-4 / 規格が求める性能要件 |
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2D安全レーザースキャナ(LiDAR)
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主な障害物・人員検知(主安全センサー) |
・安全規格(IEC 61496 Type 3 / PL d)適合が必須。
・速度に応じて「警告ゾーン」と「非常停止ゾーン」をリアルタイム可変制御できること。
・床面から規定高度(一般に150mm〜200mm以下)の障害物を漏れなく検知できること。 |
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セーフティバンパー(接触検知)
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LiDARの死角カバー・物理接触時の緊急停止 |
・接触時に機械的スイッチが確実に作動し、車両を直ちに停止(PL d相当)。
・車両が完全に停止するまでの制動距離以上の「押し込み代(クッション性)」を有すること。 |
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3Dカメラ・立体検知センサー
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上方・斜め方向の立体障害物(フォークのツメ等)検知 |
・2D-LiDARでは検知できない「床上から浮いた荷物」や「人の頭部・上半身」の空間検知。
・環境光(日光や照明の乱反射)による誤作動に強い耐性を持つこと。 |
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非常停止ボタン(E-STOP)
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手動による緊急全停止 |
・ISO 13850に適合した赤色ボタン+黄色下地構造。
・車両の全方向からアクセスしやすい位置(前後・左右等)に配置され、操作時に即座に動力遮断(Category 0または1停止)を行うこと。 |
1.3 ISO 3691-4が求める「検知ゾーン(保護領域)」の設計ルール
ISO 3691-4では、単にセンサーを付ければよいわけではなく、「ロボットが停止するまでに必要な距離」と「センサーの検知エリア」の一致を定めています。
必要検知距離 = 車両の空転反応時間による移動距離 + 制動距離(ブレーキ停止距離) + 安全マージン
- 速度連動型ゾーン切り替え: 直進時、旋回時、および加減速時において、ロボットの運動ベクトルに合わせてスキャンエリアの形状・長さを自動で切り替える機能が必須となります。
- 死角エリアの防護: 旋回時やバック走行時にも進行方向の検知ゾーンがカバーされていない場合、走行速度を極端に落とすか、セーフティバンパーによる物理防護が必要です。
1.4 人と共存するための「作業モード」と制限
- 低速走行制限(速度緩和要件): 作業員と接近・共有するエリア(共存ゾーン)では、安全センサーの検知範囲を狭める代わりに、車両の最大速度を0.3m/s(約1.08km/h)以下等に制限することで衝突リスクを許容レベルまで下げる運用が規定されています。
- 自動復帰の禁止: 安全センサーやE-STOPで緊急停止した後、障害物が取り除かれてもロボットが自動で急発進してはならず、安全確認後のリセット信号または徐行再開手順を踏む必要があります。
2. ISO 3691-4 適合性確認・認証チェックポイント
海外製または国産のAGV/AMRを調達・導入する際、カタログ上に「ISO 3691-4適合」と記載されていても、「第三者認証の有無」「ロボット単体だけでなく現場運用を含めた適合か」を見極めることが最も重要です。
2.1 適合証明の文書類チェック(書類審査)
単なるメーカーの自己宣言(自主検査)か、信頼できる第三者認証機関による認証かを確認します。
- 第三者認証機関(TÜV、SGS、UL等)の発行した認証書の有無
- 海外製機器の場合、CEマーキングの「適合宣言書(DoC: Declaration of Conformity)」に、技術的根拠として「ISO
3691-4:2020」が明記されているか確認します。
- 認証機関の発行した「適合証明書(Certificate of Conformity)」が提示可能か確認します。
- 機能安全(PL d / SIL 2)の検証レポート
- ISO 13849-1に基づく「機能安全計算書」または評価レポートが用意されており、安全制御回路が二重化(PL d相当)されていることが示されているか。
- リスクアセスメント(RA)報告書
- メーカ側が機器単体の危険源を抽出・低減した「リスク評価書」が納入ドキュメントに含まれているか。
2.2 ハードウェア・安全機能のチェック(実機評価)
機器がISO 3691-4の安全技術要件をハードウェアレベルで満たしているか実機で確認します。
| チェック項目 |
ISO 3691-4に基づく確認内容 |
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安全スキャナ(LiDAR)の選定
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使用されている2D-LiDARが「安全用(IEC 61496 Type 3 / PL d適合品)」であるか(※一般の産業用計測LiDARは不可)。 |
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非常停止スイッチ(E-STOP)
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黄色下地に赤色ボタン構造で、ボタンを押した際にソフトウェアを介さず物理的に主電源(モータ動力)が遮断(Category 0/1停止)されるか。 |
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荷崩れ・高さ方向の検知
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3Dカメラや超音波センサー等で、床上から浮いた荷物や上部の突起物を正しく検知できるか(2D-LiDARの死角対策)。 |
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最大積載時・最高速度での制動
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荷物を満載し最高速度で走行中、LiDARが人を検知して停止するまでの距離が「検知ゾーンの長さ以内」に収まっているか。 |
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手動リセット機構
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非常停止や人検知後に障害物がなくなった際、自動で再発進せず、安全確認後の手動リセット操作を挟まないと再起動しない構造になっているか。 |
2.3 システムインテグレーション(SI)と「現場適合」のチェック
ISO 3691-4は「ロボット単体」だけでなく「システム全体(設置環境)」までを含める規格です。 機器が適合していても、現場のマップ設定やレイアウトが不適切であれば適合違反(事故リスク増)となります。
- ゾーン設定(Zone Classification)の妥当性
- 専用エリア(フェンス内)、共存エリア、作業エリアの境界が正しくシステム上に定義されているか。
- クリアランス(隙間)と挟み込みリスク
- ロボット走行路と壁・柱・ラックの間に0.5m以上の安全離隔(逃げ場)が確保されているか。確保できない狭小部ではロボットが減速・徐行設定になっているか。
- システムインターロック
- 自動ドア、シャッター、垂直搬送機(VMC)等と連携する際、通信異常時に安全側へ停止(フェールセーフ)するシーケンスになっているか。
2.4 導入プロセスの最終チェックリスト
導入検討時にシステムインテグレーター(SIer)やベンダーへ提示・確認を求めるべき確認事項です。
- 「本導入環境を含めたシステム全体のリスクアセスメント(残留リスク報告書)を作成・提出してくれるか?」
- 「作業員向けに安全運用マニュアルの提供および教育トレーニングを実施してくれるか?」
- 「マップ変更やレイアウト変更を行った際、安全ゾーンの再検証(バリデーション)手順が定義されているか?」
3. RFP・発注仕様書向け 記述例およびベンダーチェックリスト
AGV/AMRの導入時にベンダーへ提示する提案依頼書(RFP)や発注仕様書において、「ISO 3691-4適合」および「現場安全要件」を曖昧にせず、具体的な要求性能・納入物として明記するための記述例とチェックリストです。
3.1 RFP・発注仕様書における「安全要件」記述例
【条項名:自動搬送ロボット(AGV/AMR)システムの安全適合および機能要件】
- 基本安全規格への適合
- 本システム(車両本体、システム制御、地上設備)は、ISO 3691-4:2020(無人搬送車及びそのシステムの安全要件)に適合すること。
- 車両本体の主要安全制御回路(速度検知、操舵、非常停止回路)は、ISO 13849-1 パフォーマンスレベル d (PL d / Category 3) 以上の機能安全基準を満たすこと。
- 納入にあたり、第三者認証機関(TÜV、SGS、UL等)による適合証明書、または自社適合宣言書(DoC)および技術根拠文書を提出すること。
- 安全装置および保護機能の要求
- 一次安全センサー: IEC 61496 Type 3 / PL d に適合した「安全用2D-LiDAR」を標準装備し、走行速度や旋回角に連動して保護エリア(防護ゾーン)を自動切り替えできる制御機構を備えること。
- 立体死角防護: 2D-LiDARの水平検出面外(床上から浮いたパレットのツメ、上部張り出し物等)を検知するため、3Dカメラまたは超音波センサー等の補完的検知装置を具備すること。
- 非常停止機能: ISO 13850に適合する非常停止ボタン(E-STOP)を車両の複数箇所(全方向から視認・操作可能な位置)に配置し、押下時にモータ駆動電源を機械的かつ直接的に遮断(Category 0/1停止)すること。
- 手動リセット: 人検知および非常停止解除後は、車両の自動発進を禁止し、作業員による手動リセット(または規定のインターロック解除)を経て安全確認後に再起動するシーケンスとすること。
- 現場システムインテグレーション(SI)および施工安全
- 導入エリア(走行路、荷降ろしステーション)の環境条件に応じ、ISO 3691-4に基づくゾーン区分(専用領域/共存領域/作業領域)を正しく設定し、マップデータへ反映すること。
- 壁・柱・既存設備との間に0.5m以上の安全離隔距離(逃げ幅)が確保できない狭小箇所においては、速度を安全速度(0.3m/s以下)に自動制限する制御を実施すること。
3.2 ベンダー選定・RFPチェックリスト
ベンダー選定時および仕様書受領時に確認すべきチェック項目です。
| 確認区分 |
チェック項目 |
要求内容・提出確認物 |
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文書・証明
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第三者認証の確認 |
CEマーク/DoC、または第三者認証機関(TÜV等)の発行するISO 3691-4適合証明書の写しが提出可能か |
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機能安全の計算根拠 |
ISO 13849-1に基づくPL dの機能安全計算結果(SISTEMAレポート等)が示されているか |
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リスク評価書 |
車両本体および現場環境を含めた「リスクアセスメント(RA)報告書」が納入物に含まれているか |
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ハードウェア
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LiDARの規格選定 |
搭載LiDARが汎用計測用ではなく「安全規格適合品(Type 3/PL d)」であるか |
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制動距離と減速 |
満載・最高速度からの「非常停止距離」が、LiDARの検知エリア内で完結しているか |
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接触防護(バンパー) |
LiDARの死角やバンパー接触時に、物理的に緊急停止する構造になっているか |
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システム・運用
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ゾーン設定・離隔 |
逃げ幅0.5m未満のエリアに対する「自動減速・徐行プログラム」が実装されているか |
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連動・インターロック |
自動ドア、防火シャッター、VMC等との通信途絶時に「安全側(停止)」へ倒れる設計になっているか |
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運用支援・トレーニング |
設置後の「安全運用教育プログラム」および「レイアウト変更時の再検証手順書」が提供されるか |